2010年7月21日水曜日

ロベルト・アラーニャが好きです。

昨夜の国営放送チャンネル2(France2)は、プッチーニのオペラ『トスカ』全幕を南仏オランジュ音楽祭から生中継で放送していた。ローマ時代の古代劇場跡で行われる公演を生放送で見られるなんて、オペラファンにはかなりうれしい番組。最近の私は、子育てからくる疲れと、異文化の環境に岩のようにしがみついて生活しなければならない疲れからか、なんとなくぼーっとしていたので、こういう趣味の世界に浸れる機会は逃したくなかった。早速録画して、今日離乳食を作りながら見ることにした。

音楽祭の生中継なんて、なかなか日本では見ることがないから、どんな雰囲気なんだろうと興味深く見ていたのだけど、幕間にはレポーターが活気湧く舞台裏や楽屋に立ち、出演者に気軽にインタビューをしていて、まさに『お祭り』気分を味あわせてくれる。でもなんと言ってもメインは、フランス生まれで世界的知名度を誇るテノール歌手ロベルト・アラーニャ。どうやらアラーニャは1998年から毎年オランジュ音楽祭に出演しているらしく、過去のアラーニャのハイライトシーンとインタビューで盛りだくさん、オランジュ音楽祭、別名『ロベルト・アラーニャ祭り』と言っても良さそうな感じだ。

フランスに来てから気がついたのだけど、ロベルト・アラーニャはフランスで絶大な人気を誇る。このオペラ生放送も、アラーニャ見たさで楽しみにしている視聴者のおかげで実現しているようなものだろう。その人気の理由は、フランス人がクラシック音楽好きというよりもむしろ、彼自身の生い立ち − 彼の両親がシチリアからの移民で、パリ郊外でも最も『危険』と呼ばれる地域の出身であること − が大きく貢献していると思う。

私は特に昔からのアラーニャのファンだったという訳ではないのだが、フランスに来てからちょっとフランスのテレビに「洗脳」されて彼のファンになってしまった。なぜなら、私もパリ郊外に住む移民だから。(私が住んでいる街はアラーニャが生まれた街よりはずっと安全なところだけど、それでも移民は多い)今年の1月ぐらいにアラーニャのインタビュー番組をテレビで偶然見かけ、そこで彼はフランスで育ったことを『幸運』だと話していた。もちろん、それは移民国家フランスの裏返しであって、この国が抱える移民関係の社会問題は根深い。ただ、未だにフランス語に四苦八苦している私が、なぜか私は彼のフランス語は理解できて、ふんふんとインタビューに引き込まれてしまった。それが、シチリア訛りのせいなのか、それともオペラ歌手としての発声法のせいなのかわからないのだけど、早口でしゃべっていても、なぜか理解できる。多分、ラテン系の人にありがちな、べらべらと長くしゃべっているようでも実はそんなにたいしたことを言っている訳ではないというものあるのかもしれないが、私は彼がにこやかな笑顔で、家族こと、音楽のことについて話す姿に、「移民としてフランスに生きることは決して悪いことではない」という希望の光を感じた。

その希望の光は、インタビューの合間に、アラーニャが2005年の革命記念日に国家『ラ・マルセイエーズ』を歌ったときの映像を見たときさらに強く輝きだした。これを見たら、フランス人でなくても心が高鳴るはず。



アラーニャは、『マルセイエーズ』のように声量を最大限に使った力強い曲を歌うと右に出るものはいないと思う。ほら、ここが俺様の見せ場だ!と言わんばかりの男らしい強さを歌うときのアラーニャは目を見張るものがある。特に、『怒り』の表現が上手で、ハイライトシーンに混ざっていた『椿姫』第二幕でアルフレード(アラーニャ)がヴィオレッタを侮辱するシーンなど、そこまで激しくいじめなくも!と思わずヴィオレッタに同情してしまうほどの迫力だった。

でも、一方で『カルメン』のドン・ホセや『道化師』のパリアッチョなど、女に捨てられた惨めな男の悲哀を表現するのはいまいちサマになっていない。今回の『トスカ』でも、テノールの一番の見せ場3幕目の『星は語りぬ』は、カラヴァドッシの絶望感がちょっと欠けていて味気ない感じがした。一流のテノールとして定番のアリアを情感たっぷり込めて歌えないところが、ミラノスカラ座事件のようなことになってしまったのかもしれない。

Wikipediaで2006年12月のスカラ座の公演中、観客からブーイングを受けたことで舞台を放棄したことを知った私は、あれ?と思ってしまった。これって、フランスを代表するもう一人の移民のヒーロー、元サッカーフランス代表のジダンみたいじゃない!?怒りがカッと頭に昇ってしまうと、それを制御できなくなるところが特に。ジダンが2006年W杯決勝でイタリアの選手に頭突きをして一発退場になったのは同年7月ぐらいのはずだから、もしかしてアラーニャもちょっとジダンのことが頭にあったのかな〜と、勝手な想像をしてしまう私だが、アラーニャのファンになってしまった私はそういうところが人間臭くていいなぁと思ってしまう。

今回の生放送の中でアラーニャがインタビューされているところを見て思わず目がいったところがある。彼の上腕から胸板にかけてのがっちりした筋肉!♥。お得意のアリアを歌っているときの彼の堂々とした姿からは想像できないのだけど、実際の彼の体格は美的に恵まれているとは言いがたい。ドミンゴやホセ・クーラなどと比べたら、ずっと身長も低そうだし、お腹もちょっとポッコリ気味。でも、上半身をしっかり筋トレしているようで、スーツを着るとちゃんと体は逆三角形を保ち、テノールの舞台衣装にありがちな第二ボタンまでボタンを外したシャツ一枚の立ち姿が、特にオペラのテレビ中継などでカメラがアラーニャをバストショットでとらえるとき、一段と映える。

オペラ歌手は自分の体が楽器だから、すばらしい声を出すために腹筋や背筋などいろんな筋肉を常に鍛えていなくてはならないらしいけど、上腕筋があそこまで盛り上がっているオペラ歌手もめずらしいなぁと思う。そもそも腕の筋肉が美しい声を出すのに必要なのかどうかは、素人の私にはわからないけど、舞台人としてかっこよくありたいと努力する俗っぽいところがまた面白くて好きである。

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