2011年12月10日土曜日

パリ症候群にならないために

『パリ症候群』という言葉はフランスに来てから知った。海外での生活を長く夢を見ていた人が、実際にその国に住んでみて現実を知り、幻滅するという症候群。私は夫からパリ郊外の様子、フランス人の傲慢さ…etcについていろいろと話を聞いていたせいか、深刻な『パリ症候群』になるほどではなかったけれど、それでも実際にパリ郊外で暮らしてみたことで、ショックを受けたことはある。それは、カルチャーショックというただの文化的相違からくる「ショック」ではない。「こんなことが普通に起きている場所に住んでいていいの?」という不安と落胆がまざったショックだ。

それでもパリは今後も世界中の人々を魅了してやまない都市でありつづけるだろう。そしておそらく、今後もパリで暮らしてみたいと思う日本人がやってくると思う。そうした人々に向けて、非力ながら私なりに、パリ症候群にならないために知っておいてほしいことを書こうと思う。

●まず、念頭に置いてほしいのは、日本に入ってくるパリ関連の情報の90パーセントは、パリの輝かしい光の部分だけだと思ってほしい。その光の中で暮らしたいと思うなら、日本でいう「庶民」の金銭感覚ではやっていけない。

●じゃあ、日本の一般庶民がパリ近辺で暮らすにはどうすればいいかと言うと、もちろんそういう大多数の層の人が手が届く範囲で住める場所はパリ市内でもパリ郊外でもたくさんある。でもその場合、近所の騒音、汚い歩道、アパートの質の悪さ、窃盗、もっと悪い場所で言うなら、乗用車への放火、銃撃事件、若者の麻薬取引を目の当たりにする可能性があることは覚悟しよう。(そして、家賃はケチらないこと。高い家賃のアパートの周辺は、こういうことが起こる確率が多少は低くなるから。)

●フランスで英語が通じないと嘆かない。それは日本で中国語が通じないのと同じこと。

●一度ぐらい財布を盗まれたりしても、嘆かない。日本人だけでなく、現地のフランス人でも同じ被害に一度はあっている。

●意地悪で嫌な人の数だけ、親切でやさしい人もいる。嫌な人しかいないと思うのは、まだあなたが良い人たちに会うチャンスに恵まれていないだけ。

●せっかく異文化に触れるためにフランスに来たのだから、日本人と群れるのではなくて、フランス人とだけ付き合おうと最初から決めないこと。それはそれで素晴らしい心構えかもしれないが、それはかえって海外生活の可能性の幅を狭めていることにしかならない。

●怒りは溜め込まない。嫌なことをされたら、公然と怒っていい。

●落ち込んだら、パリのあちこちにある美しいものを見よう。

***

私は2年間パリ郊外に住んでみたが、実際に経験した「ショック」だったことを挙げるとすると、

●新年が明けた元日の夜中に、近くの駐車場にあった乗用車が放火された。

●気温0℃近い厳冬の日に、ジプシーの女性がまだ一歳にも満たないであろう赤ちゃんを抱いて路上座り込み、物乞いをしていた。

●スーパーでビニール袋で包装されたズッキーニを買い、家で開けてみたら一本以外すべて腐っていた。レシートを持ってスーパーに「これを替えて下さい」と言いに行ったら、
「うちのスーパーは腐ったものなんて置いてないわ。よく見ないで買ったあなたが悪いのよ!交換もしないし、返金なんてできるわけないじゃない!」と言われた。

●パリの地下鉄でスリ未遂にあった。幸い何も取られなかったのだけど、スリを実行しようとした人はちゃんとした身なりの若い女性。私はその相手を睨み返したのだけど、相手はケロリとした笑顔で「あらー、失敗しちゃったわ〜」と開き直っていた。

●パリのオペラ通りにある銀行のATMでお金を下ろそうと思ったら、ジプシーの若い女性3人に囲まれて、お金を盗まれた。(この件はあとで詳しく書くつもり。)

●アフリカ系のおじいさんが、5、6歳ぐらいの女の子を抱えて路上でおしっこさせていた。人通りがない場所ではなく、バスも車も人もたくさん行き交う路上で。(違う場所で、2回も目撃してしまった)

●近所の公園の平日の昼間に、中学生ぐらいの男の子が数人、麻薬のようなものを交換しあっているのを目撃した。

●明らかにまだ免許を持てる年齢ではなさそうな若い男の子が、巨大な集合住宅の敷地内をバイクで爆音を鳴らしながら疾走していた。

最初にパリ近辺で日常的に起こっていることについて多少でも知識があれば、実際にパリに来て幻滅することも減るかと思って列挙してみた。改めて考えると、何て場所に住んじゃったんだろうな〜と思うけど、こうしたことの間に流れた日々の生活はとりあえず平穏だった。おそらく、私が独身で子持ちでなかったら、こういう環境でもこの現実は受け入れるしかないと自分に言い聞かせ、なんとかやっていけたと思う。でも、子育てをしている立場からとなると、この環境からは絶対に出なくてはならない、と真剣に思い悩み、奇遇にも来年早々にパリ郊外から引っ越すことになった。新天地はイギリスのケンブリッジ。

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