2012年2月17日金曜日

パリ・オペラ座界隈のスリ事件

イギリスに引っ越してしまい、だんだんフランスでの生活の記憶が薄れていく…。
忘れる前にどうしても書いておきたい出来事があった。パリで出会ったスリについて。

イギリス行きが決まった去年の11月、私は夫を子供に預けて1人パリで美術館にでも出かけて息抜きをしようとした。もうパリでの日々も残り少ないのだから、せめてもの思い出にとうきうき気分で出かけて行った日曜日、スリにあった。被害額300ユーロ。

場所は、オペラ座広場、ちょうどオペラ座がほぼ真っ正面に見えるBNP Paribas銀行内。普段から路面にある外のATMでお金をおろすのになんとなく不安を感じていたので、わざわざ店舗内に併設されたATMを選んでお金をおろしに行った。財布の中には10ユーロ紙幣1枚しかなかったので、気分的にせめてあと20ユーロぐらいあったほうがいいかなぁと思っていた。いつものようにカードをATMに入れて、暗証番号を押し、20ユーロの指定ボタンを押したぐらいのときに…。

背後からか細い女性の声で「エクスキューズ・ミ〜」と聞こえた。振り向こうと思った瞬間、その女性が私の後ろから手を伸ばし、ATMの操作画面で300ユーロを指定している!!

私はとっさにキャーッと大声を出し、後ろを振り向くと東欧系の若い女性3人が、私の叫び声に驚いた様子で「ウィ〜・ドゥ〜・ナッシ〜ング(私たち、なーんにもしてないわよ〜)」ととぼけながら、私を取り囲んでいた。私はATMから吐き出された自分のカードだけを抜き取って、その場を大急ぎで立ち去った。落ち着いて待っていれば、カードを抜き取ったあとに300ユーロ紙幣が出てきて、それを懐に納めて逃げればよかったのだろうけど、そんな余裕は一切なし。おそらくその後何事もなかったように機械が吐き出した300ユーロを彼女たちはしめしめと手にしたことであろう。

日曜日の真っ昼間の出来事だった。銀行店内のATMだから安心だなんてとんでもない。日曜日だから店内にもガードマンもいないし、業務窓口は閉まっているから、まるで魚が網にかかるみたいに、格好の餌食となってしまった私。この日から三日は放心状態だった。結局警察に被害届を出して、それを保険会社に渡したら300ユーロは還ってきたけれど、その日はパリの思い出づくりに出かけたのが、とんでもない結果になってしまったことのショックが大きかった。よっぽど自分はパリに縁がない運命なんだなーと。

もう一つショックだったのは、やはりスリ3人組のこと。10代後半ぐらいの女の子たちで、そのみすぼらしい身なりから東欧から流れてきたジプシー系の子たちだと思われる(3人とも似ていたので、おそらく3姉妹)。彼女たちはすでにプロのスリという感じがした。おそらく私が暗証番号を押し終わったと思われるタイミングで店舗内にはいり、さっと画面を操作する。きちんと獲物の行動を観察して犯行に及んでいるのは明らかだった。

彼女たちの表情の中には、切羽詰まった生活の苦しみや、生きるために法を犯さざるをえないといった羞恥心のようなものは一切なかった。私が叫び声をあげている間にかいま見た彼女たちの表情には「失敗してもまたやればいいのよ」といったケロリとした感じが読み取れた。何かドラマで見る不良少女のように、もし彼女たちが少しでも「ふん、仕方ないじゃない、生きるためなんだから」と言った反社会的な恨みにようなものを顔にちらつかせながら犯行に及んでいるなら私もまだ納得できたのかもしれない。そうではなくて、彼女たちがまるで真っ当に働いている人たちと変わらない表情でいられることが私には不思議で、また恐ろしかった。

警察に行って「3人組に…」と言ったら、警官が「もしかして、この子たち?」と入り口に座っている3人の中学生ぐらいの男の子たちを指差した。違います、と言ったら、今3人組のスリは珍しくないからと説明された。ちなみに彼らは捕まってもすぐ釈放されるケースが多いので、パリからはスリは減らないようだ。

夫からは「今はカードがどこでも使えるんだから、10ユーロ現金があれば十分なのに…」と言われ、確かに私は東京暮らしの感覚がまだ抜け切れていなかったんだなーとも思った。

パリ観光に来る皆様。とにかくお気をつけあれ。

2012年2月12日日曜日

ラブリーでダーリンな英国

ブログのタイトルを変えようかと思いつつも、とりあえず英国に無事上陸し、やっと落ち着いてきたので、今の状況だけ書き残す。

当初、フランス人の夫と出会ったとき、夫は明らかに英国を毛嫌いしていた。マーマレードという苦いジャムを口にできるなんて、味覚が狂ったイギリス人にしか出来ないことだとか、天気予報でイギリスが雨雲に覆われているのを見ると軽く「ああ、またイギリスは雨。かわいそう〜!」とうれしそうに嗤ったり、ここまで異国の文化をバカにして日常生活の憂さ晴らしをしている夫を見て、普通に育った純日本人の私にはできない芸当だわ、と思っていた。

ところが、今はそれが手のひらを返したように180度変わった!
私もびっくり。夫自身もびっくり!!

さすがにジャムは甘いものだと洗脳されている部分は変わらないけれど、今の夫の大好物はスコーン。イギリスに来たら、おいしいフランスのバゲットを恋しがるかと思いきや、そのスコーンがあるから「別にフランスの食べ物も恋しいともあまり思わないなー」とさえ言う。

それは私も同じ意見だ。イギリスの食べ物は美味しくないという先入観が手助けしてくれているのかもしれないが、ケンブリッジの食事情は思ったほど悪くない。レストランとパブで食事をしたけど、まあまあおいしかった。しかも外食するとパリよりは少し安く済む。パリ郊外に移住したときと違って、期待値が最初から低いと、なんでもありがたく感じてしまうものなんだな、と改めて学んだ。

まあ、異国の物珍しさに心躍るのは最初の3ヶ月ぐらいで終わってしまう可能性が高いけれど、とりあえず私も夫も一ヶ月ケンブリッジで暮らしてみて、満足している。

夫は最初にケンブリッジを訪れたとき、ホッとした感覚があったという。街中は観光客でにぎやかな雰囲気があっても、決してパリのようにうるさくない、という。無駄にクラクションを鳴らしたりする車もないし、平穏な気持ちで街を歩けるそうだ。私も言われるとそうかなと思う。

また夫が面白がっているのが、イギリス英語。
引っ越した当初、水道や電気やらの手続きを電話ですることがあったのだけど、
「名前は?」と聞かれて「○○です。」というと、相手から必ず"Lovely"と返事がある。
次に「住所は?」と聞かれて答えると、また「ラブリー。」
次に「郵便番号は?」と聞かれて、また「ラブリー。」
ただ必要事項を答えただけなのに、何で水道局のおじさんから「ラブリー」って言われるんだ?と夫は小学生のように喜ぶ。確かに、英語を本と学校の授業で学んできた私と夫にとっては、「ラブリー!」と言われると、なんだか「きゃ、素敵!」とか、おかま言葉っぽく頭の中で変換してしまうのだ。

またあるとき夫が細い路地の街角で人とすれ違うときに、相手の女性に道を譲ったら、
「サンキュー、ダーリン」
と言われ、「あのおばさん、赤の他人に向かってダーリン??」
とまた大笑い。

確かにイギリス人は"Lovely"と”Darling"を大盤振る舞いで使う。その昔、夏目漱石がイギリスに留学した時代にも、イギリス人はこういう言葉を頻発していたのだろうか?堅物なイメージがある作家がイギリスの街を歩き、「ラブリー」とか、「ダーリン」と言われて、苦虫をつぶしたような顔をしているところを想像して、少し笑ってしまった。